読んだもの

有栖川有栖「女王国の城」上・下巻 東京創元社(文庫/創元推理文庫)

英都大学推理小説研究会の部長、江神が姿を消した。アリスらは手掛かりから宗教団体“人類協会”の聖地、神倉に向かう。紆余曲折の果て、江神との再会を果たすがそこで殺人事件が起こり…と言う話。
久々の学生アリスもの。今度の相手は宗教だ!と言う訳ではないが、宇宙人を信仰(?)する団体の奇妙な行動や拘束された面々の脱走劇など、ページ数の割には中々読みやすかった。ただ、姿を現さない<女王>や、連続殺人、そして11年前の殺人事件など、謎が謎を呼ぶ展開はいいとして、道具立ての割にはトリックや動機が弱い気がした。学生アリスものファンなら楽しめる要素もあるけれど、もう少しコンパクトにまとめた作品になっていたらよりよい作品に仕上がったのではないかと思う。

菊地秀行「吸血鬼ハンター アナザー 貴族グレイランサー」 朝日新聞出版(新書/朝日ノベルズ)

「吸血鬼ハンター"D"」から始まる「吸血鬼ハンター」シリーズの外伝的作品で、まだ<貴族>が地上を支配する時代、辺境の管理官の一人で最強の<貴族>と言われるグレイランサー卿を主人公とした作品である。「D」の世界では滅びゆく<貴族>=吸血鬼達が敵だが、この作品ではその<貴族>が主人公で、宇宙からの侵攻勢力「OSB」との戦いや、<貴族>を支配する枢密院の陰謀描くと言う中々興味深い流れになっている。実際の所、話の流れはいいと思うのだが、「D」の世界にある虚無感と言うか昏さ、渇きといった風情はあまりなく、地の分で「マスオさん状態」という言葉が出るくらいにざっくばらんな感じを受けた。更に話の規模が大きすぎるのか新書一冊では「ダイジェスト」とも取れる程話の展開が早すぎて、少々重みに欠ける気はした。前述のように話の流れはいいと思うので、もう少しじっくり描きこんでほしかったと思う。

やまむらはじめ「天にひびき」3巻 少年画報社(B6/YKコミックス)

天才的な指揮者の素質を持ち、天然な少女、曽成ひびき。彼女との再会で再び音楽への情熱を取り戻し始めた音大生、久住秋央と仲間達の繰り広げる音楽青春ものの第3巻。この巻では秋央の幼馴染、美月の登場で「ラブコメ」の色合いが強くなって個人的にはとても楽しい。と言うか、黒髪巨乳のヴァイオリニスト、波多野にも好かれててモテモテだな、秋央、と言う気がしないでもないが、なんだかんだで苦学生な梶原や個人的にお気に入りの如月先生など、ただ音楽だけでなく色々な人間模様や暗い部分が作者らしく描かれていて好感が持てる。派手さは控えめだが、じっくりと続けてくれる事を望む作品である。