読んだ本

海音寺潮五郎「覇者の条件 新装版」 文藝春秋社(文庫/文春文庫)

日本史上に名だたる覇者、為政者12人を取り上げその功績と生涯を俯瞰した文章と、平将門に関するエッセイ・鼎談を収録した作品集。今から30年程前のため、多少古い感じがしないでもないし、個人的には一部異論が無いでもないが、口語調の語り口とその内容の小気味良さで気軽に楽しめる歴史読み物である。野中兼山とか細川重賢のような割合にマニアックな感じの為政者を取り上げているのも興味深い。これを手掛かりにまた深く歴史の本に浸るのもまた良しと思わせてくれる本である。

菊地秀行「D-冬の虎王」 朝日新聞出版(文庫/朝日文庫ソノラマセレクション)

北部辺境区の管理官として「虎」の異名をとるヴァン・ドーレン公爵。その夫人からの依頼で公爵の下を訪れたD。そこはかつての秘密兵器を求め「調査団」や反乱軍らも集まって居た…と言う「吸血鬼ハンター」の最新刊。
凄く読みやすいのだが…その反面「軽い」。昔の「D」はもっと黄昏の世界を描いた雰囲気だったが、近頃の作品はどうも陽光の下を歩いているような気楽さがあるのは何故だろう。D自身もすっかり存在感が薄くなった脇役だし、「外伝」的な「グレイランサー」の方が描きやすくなっているのだろうか。Dの秘密とか貴族の生態とかまだまだ描くべき事は残っているのだから、まだまだ頑張って欲しいところ。

津原泰水「たまさか人形堂物語」 文藝春秋社(文庫/文春文庫)

澪の受け継いだ零細人形店「玉阪人形堂」。小売よりも修理が主な業務となりつつある人形店に持ち込まれるいわく有り気な人形達の謎を、押しかけ従業員で人形マニアの冨永くんと謎の職人、師村さんたちと探る事になるが…と言う話。
「人形」と言う事でもっと暗くホラーな話かと思ったら、かなりまっとうな推理物の類だった。殺人とかトリックとかはないけれど、人形とそれに仮託された人の想いが紡がれている作品集である。前述の通り、ホラー的なものを期待していたのだが予想は外れて、それでも中々面白い作品だった。続編があれば読んでみたいと思う。